健康食品コラーゲン市場

健康食品で肌を美しく保つことをうたったコラーゲン関連商品は300億円も売れていて、もはや一大産業だとの声も聞かれているのだが、コラーゲンが「美肌」になるという科学的根拠はまだない。コラーゲンを食べても、そのまま体の中で肌を支えるコラーゲンになるわけではないのだ。

健康食品市場が縮小しているなかで、コラーゲン関連健康食品は好調に売れ行きを伸ばしている。市場調査会社によると、2007年のコラーゲン関連市場は2006年よりも約20%も拡大し、316億円の見込みとなっている。

コラーゲンは、もともと豚の皮や牛の骨から抽出されたゼラチンとして、薬のカプセルや写真フィルムなど医療や工業で幅広く使われてきたものだ。健康食品に入っているコラーゲンペプチドは、豚や魚などのゼラチンを酵素で分解して精製したもので、年に4000トンが流通しているのだ。

「仕事で忙しくて、肌が荒れてきたかな、と感じた時に、自分を元気づけたくて、コラーゲン入りの健康ドリンクを飲みました。体の中から効くような気はします」(女性会社員・28歳)

「『コラーゲン』と聞くと、食べたほうがいいのかな、と思います。テレビでも盛んに宣伝しているし」(主婦・42歳)

コラーゲンは、化粧品の保湿成分として配合されてもいるが、飲んでも美肌に効くというメーカーのうたい文句は、
・表皮の下にある真皮は主に、コラーゲンの線維で支えられている。
・コラーゲンは、年齢を重ねると、硬くなったり、変形したりする。数自体も減る。そのために、肌は張りがなくなり、しわが出来る。
・美しい肌を守るためには、健康食品でコラーゲンを補給することが必要。
一見、もっともに思われる説明だが、食べたコラーゲンが、そのまま体内のコラーゲンになるわけはない。肉を食べてそのまま体の筋肉になるわけではないのと同じ原理だ。

コラーゲンはタンパク質で、水に入れて加熱すると、コラーゲンを構成している三重らせんがほどけて、スッポンやアンコウを煮込んだ鍋のスープのようにお湯にとけ込み、スープのコラーゲンは、胃と小腸の酵素で細かく分解され、アミノ酸やペプチドとなり、小腸の粘膜から吸収され、肝臓に運ばれた後、心臓から全身に送り出される。そして、全身のさまざまな細胞で利用されるわけだが、コラーゲンから分解されたアミノ酸が、お肌のためのコラーゲンになるわけではない。

「お肌のために」と期待して摂取しても、骨を作るコラーゲンのもとになるかもしれないし、他のたんぱく質の材料になるかもしれないのだ。運動のためのエネルギーで利用されることもありうる。

健康食品に入っているコラーゲンは、口に入れる段階で、すでにペプチドの形になっているから「吸収しやすい」とアピールするメーカーもある。胃・小腸で分解する手間は省けるため、吸収しやすいのは確かだろうが、行き先を選べないのは、食べ物に含まれるコラーゲンも、加工されたペプチドも同じだ。

生体高分子学が専門で「コラーゲンの話」の著書がある大崎茂芳・奈良県立医大教授は「コラーゲンは、3分の1がグリシンというアミノ酸で、さらに15~30%がアミノ酸のプロリンとヒドロキシプロリンの組み合わせで出来ています。このうちのヒドロキシプロリンは、アミノ酸のプロリンがヒドロキシ化(水酸化)された特殊なもので、通常のアミノ酸とは違うため、体内に存在しても、皮膚のコラーゲンを作る線維芽細胞に取り込まれません。健康食品のペプチドにもヒドロキシプロリンはかなり含まれるでしょうが、ヒドロキシプロリンがコラーゲンの材料にはなることはありません」といっている。

細胞内でプロリンをヒドロキシ化するのに、ビタミンCが必要。ほかに、リシンという必須アミノ酸も取り入れなければならない。結局のところ、体内でコラーゲンを作るためには、たんぱく質を含むいろんな食べ物をバランスよく食べていればいいということになりますと、大崎教授は、「コラーゲンの話」を書く際に、魚や牛骨からコラーゲンペプチドを作っている食材メーカーを訪ねて話を聞いたというのだ。